「ゆめ物語」で終わらせないために(第1回)
2006/09/04
これから不定期的にではありますが、京都大学再生医科学研究所 生体組織工学研究部門 生体材料学分野 田畑泰彦教授のコラムを掲載させていただきます。
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完全には体になじまない生体材料を利用した再建外科と臓器移植との2大先端外科治療はもちろん患者の救命に大きく貢献していますが、一方では、その治療方法としての限界も見えてきています。このような状況で生まれてきたのが「再生医療」です。その基本発想は生体の本来もっている自然治癒力を最大限に活用、生体組織の再生誘導能力により病気を治療することです。
例えば、これまでの人工血管は生体内で吸収されず、いつまでも体内に残ります。この材料の体内での残存物が、時としてよくない生体応答の原因となることがあります。再生医療では、生体内で吸収する材料から人工血管を作り、これにタンパク質や細胞を組み合わせ、体内に埋入します。細胞は材料内で増殖、分化し、血管組織が再生誘導され、再生修復の過程で材料は分解吸収されていきます。細胞が自分のものであれば免疫拒絶もありませんし、材料が分解消失するので、生体反応の問題はありません。
生体組織の再生誘導には2つのアプローチがあります。1つは細胞を積極的に用いる細胞治療であり、もう1つは、前述の人工血管のように、生体材料を用いて細胞による生体組織の再生を誘導する方法です。後者が生体組織工学(Tissue Engineering)と呼ばれ、生体組織の再生を誘導する細胞の局所環境(場)を作り与えるための工学技術、方法論です。再生現象にかかわる生物医学研究の進歩に伴い、最近では再生誘導ポテンシャルの高い細胞を扱えるようになってきています。そのため「再生医療は、まず細胞ありき」という感が強くなっています。しかしながら、細胞のみでは生体組織の再生誘導ができない場合も多く、生体組織工学の発想が、再生医療には不可欠なのです。
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続きの掲載は来週を予定しています。